王禅寺と王禅寺ふるさと公園(川崎市麻生区)





飛機の音の野原に幽かうまごやし(2003,05)
王禅寺ふるさと公園の広場
 小田急線の柿生周辺は寺家ふるさと村や古墳群など歴史を感じさせるところが多くあり、由緒のある寺院も数が多いようである。そしてそれぞれが吟行したくなる何かが備わっている。
 この王禅寺も、そんな寺の一つである。ただし、山門にはこの寺は観光寺ではありませんと立て札がある。綺麗な大きな花園があるわけでも広大な寺苑を有しているわけでもない。
 山の下の旧参道は開発されて住宅街になっている。30メートル位の高さの山の頂上に古びた仁王門と本堂が杉林や竹藪の中に静かにあるだけである。
 私がこの近くに越してきた頃、王禅寺という広い町名のあるのを知り、その近くの人何人かに王禅寺と謂うお寺はありますかと聞いてみたが、誰も知らなかった。昨年の花見時期に王禅寺ふるさと公園に行き、偶然公園の裏道に出てしまったところ、そこが王禅寺の側道であった。
 王禅寺は宿星山王禅寺と謂う。この星が宿る山と言う言葉にまず惹かれた。開発の進まぬ昔はどんな寺であったろうかと思う。
 また、大樹に囲まれてある仁王門は相当の歴史を感じさせている。

      木下闇仁王は目玉むきにけり  光晴(2002,04)

若葉影拾ひつつ堂めぐりけり(2002,04) 池はおたまじゃくしが群れていた
 寺の歴史も古い。921年(平安時代か)高野山の三世無空上人により創建されたそうである。したがって、ながく関東の高野山と呼ばれていたらしい。
 またこの辺は江戸初期頃には王禅寺村として独立した村となり、二代将軍秀忠の婦人、お江与の方のお化粧領であった。その後徳川家菩提寺の芝増上寺の領地となったが、農地としては条件に恵まれず、余業としての柿栽培が大々的に行われ、禅寺丸として江戸市中に出荷され有名になったとのことである。この寺にはこの禅寺丸の原木があり、神奈川の名木100選に指定されている。未だに柿の木の多い土地である。
 また、北原白秋も昭和10年来気に入って何遍も訪れたそうである。歌碑もある。
 場所は、小田急線柿生駅から田園都市線たまプラーザ行バスで日立研究所下下車徒歩5分のところ。もちろん、逆からでも良い。
 この王禅寺の裏に広がる丘陵と森が面積8,5ヘクタールの王禅寺ふるさと公園である。
梅、桜、新緑の木々は季節に応じて楽しめる。それに鴬を始めとする野鳥類は、小綬鶏、雉、カッコウなど街中と異なった種類も多い。また野生動物も狐、狸なども生息しているようだ。しかし、犬の散歩者が多く、犬を放さなくても臭いでしだいに野生種の個体数も減っているらしい。      
奥に巣があり、雛でもいたのか、番であり逃げようともしなかった 公園の里山への木道
   

最終吟行日2003,05、16



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