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風の盆(富山県八尾)

ぼんぼりのひのやわらかしかぜのぼん

雪洞の灯のやはらかし風の盆
伊吹嶺2006,12月号伊吹集収載句

   念願の望みであった、風の盆に行くことが出来た。
 夜の8時50分には、八尾駅を去らざろうえず、町流しを見ることは適わなかったが、 町の広場で踊る、輪踊りを始め、豊穣踊り(女踊り)、男踊り(案山子踊り)、夫婦踊り全てを 最高のシチュエーションで見られたことは感激であった。
 観光バスの乗り入れが規制されている八尾駅には、どんどん臨時電車が到着する。
 しだいに周りの山陰が濃くなって、うっすらと雪洞に灯が入る頃には大変な人出となっていた。
 おわらの中心は八尾駅から2qほど山際に寄った場所である。歩けば3,40分掛かる。
 まず駅前の広場で輪踊りを見学、急いでタクシーで奥に向かった。
 どこも7時頃までは夕食で踊りはないとのことだが、遠方からの見物客は良い場所を確保しようと みな急ぎ足で歩いていた。タクシーは交通規制を避け二山ほど迂回して目的地に着いた。
 

   人波の駅に下り立つおわら盆

   腰伸ばし飛入る爺や風の盆

   飛入りの踊りの手先伸びきらず

 我々は運転手さんから貴重な情報を得た。
 おわら演舞場は有料の上、雨が降れば中止となるし混雑も甚だしい。風の盆の発祥の寺で聞名寺と 言うのがある。ここなら踊りは本堂の広縁でやるから必ず見られます、というものであった。
 その上、パラッときた雨に立派な傘まで、記念に持って行けと呉れて旅の人情に感激した。 傘は見物後の駅まで帰る道で鋭い雨脚にあったが、お陰で大助かりであった。 傘はタクシーの営業所に寄りお礼を言ってお返しした。
 聞名寺は、鄙びた中にも大きな名刹で、ここの念仏踊りが「おわら」の発祥らしいとのことで あった。風の盆の石碑などもあり、暮れなずむ境内に虫の音を楽しみつつ7時の開演を待った。
 観客の少ないときは、境内で輪になって参加型の輪踊りもあったそうだが、ぎっしりの会場は 身動きも出来ぬほど。
 全員正坐して、合掌を行い女踊りの豊年踊りから始まった。



   山峡の雨雲低し風の盆

   身を反らし祭浴衣の胡弓引く

   唇の赤のみ見せし祭笠

おどけたるかかしおどりやでくのごと


   闇寄する境内に聞く虫の声

   合掌をして始まりぬ風の盆

   胡弓の音途切れぬ村の盆提灯  

ほんどうのたかとうろうやめおとまい


   寄り添うて夫婦踊や高灯籠

   大仰に案山子となりぬ男舞

   鈴蟲や旅の八尾に愛受くる


 列車もなかった頃、この谷間の村では風の盆は一年で最大の楽しみでもあり、男女の出会いの場 でもあったであろう。
 もの寂しげな胡弓の音と、どちらかと言えば音の大きく勇ましい犬の皮を 張った三味線の音のハーモニー。これもすばらしかった。
 そしておわら節のさまざまな歌詞、また合間にも休まぬ地方衆の汗。みんな忘れがたい。
 その上八尾の人に受けた情け。日本人の原点に遇う旅であった。
[了]
2006年9月1日

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