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初伊勢(三重県)



大寒の千木煌々として太し

伊勢詣

 毎年恒例の俳句結社「伊吹嶺」の新年会が知立セントピアホテルで開催された。
 毎年中部地区の連衆の誰かが案内をかってでて頂いて、翌日を吟行そして句会と楽しむのであるが、今回は6日でまだ 松の内でもあり、迷惑になってもと思い、東京の欅句会の参加メンバーと天候しだいで名古屋から行ける処を当日決める こととして、名古屋駅前のホテルだけを予約して出かけた。
 当初は、京都や岐阜も候補に上がったが関ヶ原方面は雪警報が出る天候となり、伊勢賢島などを考えた。これも海上が 相当に荒れそうだとの予報を得て、伊勢神宮の初詣と相成った次第である。
 列車の窓から見る四日市コンビナートの煙は真横へと靡き、反対の車窓には雪雲の鈴鹿連山が遠望された。
 近鉄特急で伊勢市駅を降りると、初詣の人は大勢歩いていた。観光バスが連なり、参拝客を吐き出していた。
 駅前に仮装をした、ええじゃないか連の若者の一団がいた。ネットで全国に呼びかけて集まった連で、お互いはまだ ほとんど相手を知らないとのことだった。


   恵方道指して煙の靡きけり

   風花や鈴鹿の峯の暮れなづむ

   満員のバス連なりて冬菜畑    

下宮

かざはなやきしみやまざるのぼりざお  御伊勢詣りは、東海道膝栗毛始め、森の石松や落語の八つあん、熊さんまで江戸時代の庶民の一大イベントであったのだ。
 日本人のDNAのなせる業か、伊勢は何か違った華やかさと荘厳さ、清浄な気分と言ったものが渾然として楽しい初旅 となった。
 下宮はげくうと発音する。風花が舞い、幟旗が大きな音で軋む中バスの団体さんと一緒になって、初穂料を収め、一舐めのお神酒を頂戴して 柏手を打った。
 20年に一度の遷宮を平成25年にひかえ、大きな丸太を曳くお木曳車も飾られていた。
 この後、内宮やおかげ横丁、さらには古市の町も歩きたいと思うので足早に連絡バスの列にならんだ。この頃になると マイカーも増え、地図上では近い内宮までのろのろであった。

内宮

かざはなやみたらしばなるいすずがわ

   風花や軋み止まざる幟竿

   寒晴や外宮の砂利の音高し

   着膨れてバスを降り立つ伊勢詣    
07年4月号「伊吹嶺」伊吹集掲載

はまやてにおかげよこちょうたもとおる  五十鈴川に架かる宇治橋を渡って内宮に入る。橋板はすり減っているところもあるが、これも20年毎に架け替えられるそうだ。
 無形の技術の文化遺産を残すためにも必要な行事なのかもしれない。
 驚いたことに五十鈴川自体がお清めの場である、御手洗(みたらし)となっていることであった。せせらぎの音を聞き、風花の中に 手を浄めて奥に向かった。
 ここからは参拝者の頭越しにお賽銭を投げて、流れのままに歩くしかない。本殿の裏を巡り寒桜の見える宇治橋 を後にした。
 下宮から内宮への参道である、おはらい町は名物の赤福始め食いものとお土産の道筋だ。その中におかげ横丁があり、 「海に出て木枯帰るところなし 」 の山口誓子俳句館がある。誓子の句に改めて感動して、古市に歩き始めた。

麻吉旅館

 

   風花に墨絵の如し五十鈴川

   杉の香の強き神座落葉踏む

   破魔矢手におかげ横丁たもとほる    

いたかべのふるきはたごにふゆひざし

   干鮑販ぐ老舗の注連香る

   古町や旅籠の板の黒ずめり

   立春や駅賑やかな伊勢音頭    

 古市へは歩けば30分程掛かるという。しかし道路の混雑を考えれば、タクシーもおいそれとは拾えそうもなく、 途中の猿田彦神社(天の巖戸でストリップを踊った天宇受売命(アメノウズメノミコト)を祀った佐瑠女神社もある。) にも寄れるしのんびりと地元の人が利用する食堂なども探しつつ歩こうとなった。
 同行の女性も健脚であり助かったが、食堂も見つからぬ上、右折場所を見落としたりで1時間ほど歩いてしまった。
 古市はその昔、下宮と内宮を結ぶ参宮道で、遊郭70軒、遊女1000人がいた、大歓楽街であったそうだ。
 ところが古市で見つけた唯一の定食屋は根田の抜けそうな、猫の毛まで角にこびりついているもの凄い店だった。
 しかし、腹も空き、動く気もなくなった一行は、なんと酒まで頼み、精進落としの句会を始めたのであった。
 ここでタクシーを頼んでおき、昔の面影が残るという、麻吉旅館を見に出かけた。
 懸崖に6階造りの旅館で、風情のある建物であった。泊まることも出来るらしいが、それはまたの機会にして、 宇治山田駅へと走ってもらった。
 特急を待つ間は、駅に特設ステージの伊勢音頭を見て楽しい初旅を終えたのであった。
[了]
吟行2007,1,7

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