神無月軒に黒ずむ十団子
しぐれ路に異国の面と十団子
屋号「お羽織屋」の石川家には、つぎはぎの陣羽織がケースに入って飾られている。フラッシュは焚かなかった
ので、語り部のお婆さんも気づかなかったのかも知れないが、この写真と羽織の写真をうっかり撮って
しまった。お婆さんは九十歳とのことだが、毎日声を出しての語りが元気の源なのだろう。何時までも
元気であって欲しい。
語り部の婆の鎮座や冬灯し
捩れ癖つきし古文書日の短
馬の履三つ飾りて冬温し
この宇津ノ谷の道筋は石畳が敷かれ、軒先には屋号の看板が揺れて往時を偲ばせている。何で読んだかは
忘れたが、丸子、岡部、間宿の三宿でここは武家が中心に利用した処とあった。どちらかが商人で、もう
一方は博徒など遊び人が多かったとあった。
木守柿角屋の雨戸固閉ざす
綿虫や十団子吊す古街道
間宿の外れに明治に出来たトンネルがあり、その横に峠の旧道がある。ここからは全戸が見下ろせた。
慶龍寺の延命地蔵の裏山は南天の実でまっ赤であった。前に来た時は子供達の十団子などを売る声で賑やか
であったが、この日は綿虫が舞うのみであった。