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先師高僧繪卷       武藤宏樹

日本短歌 昭和十六年八月号収載

  遠き世の奈良の聖の面形を生けるが如く繪卷にのこす

  聖らの竝ぶ繪卷に盲ひたる鑑眞和尚まじり給へり

  墨色のかするる畫像唇(くち)のみを
                紅さしたれば忘れえなくに

  在(おは)すごと聖の面はその唇(くち)に
                紅ふふみたりあはれ繪卷や

  奈良人が寫す聖の御姿白描ながら生けるがごとし

  淡墨に天地の秋のただよへる
        某(なにがし)の繪の古き鷺?(ろじ)の繪

  崋山の子渡邊小華畫きたるヒポクラテスの像に心ひかるる

   *注 光リ 六句目の鷺?(ろじ)は大きな海鵜のこと。
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