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歳晩拾遺         武藤宏樹

東禰李古(とねりこ) 昭和十八年一月発行
          第十九卷 第一号

  漂蕩(ただよ)へるくに修理固成(つくりなせ)と
         のたまひし神勅いまやうつつに治(しら)す

  印度騒擾のニュースききつつ庭に來し
                 蝉の擧動を吾は追ひをり

  聽診器かくしに収め若き女醫千代紙の鶴折りて竝ぶる

  水中の藻にかゝりゐし紅葉(もみぢば)は
                魚鱗に觸れて沈みゆきたり

  一滴の青きインキが電燈の光を浮かべ畳にありぬ

  金魚鉢の譬へば魚態みるごとき阻塞気球が寫像に浮ぶ

  秋さむし落葉を降らす寺庭に集りてきく深大寺縁起

  片時雨くらきみ堂に燭とりて白凰佛の御(おん)厨子ひらく

歌會記より
  車窓より耕地整理の畑道が平行線のままに移動す

 *注光リ 他に編集後記あり。
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