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友を葬りぬ        武藤宏樹

東禰李古(とねりこ) 昭和十七年九月発行
          第十八卷 第二号

   四月須永正也没す、吾とは少年の日よりの友なりし
  ひんやりと消毒藥の流れゐる
             朝光(あさかげ)の中の君が亡骸

  煙突の噴き出(いだ)すけむり日に黒し
                 重油をかけて君が骨焼く

  ほとぼりのいまだは消えぬ骨片を
                火葬場人は掻き寄せよこす

  此処の土地濱邊に近く甕を埋むる
          墓穴(はかあな)に砂の落ちてやまなく

  はらはらと乾ける砂の落ちて行く
                墓穴のなかに甕を入れたり

  君が弟いもうとなどとはさみあふ
                 白骨は輕く音たてにけり

  墓場(はかには)の向ふに見ゆる山脈(やまなみ)は
               君が部屋にありし水彩畫の山

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