房総の四季
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上総の火渡行
火渡の勢の狼煙龍天に
上総一宮から車で20分ほど勝浦よりに西善寺がある。
西善寺は1534年の戦国時代に法印慈光の開基と伝えられ、現在の本堂も1809年
に再建されたものだそうだ。本尊の阿弥陀如来も秘仏とのことで共にこの日は見る
ことも出来なかった。
毎年2月11日が閻魔様の火祭の日で、参詣してきた。この寺は閻魔堂、薬師堂
を備へ、他に房総七福神の福禄寿の寺でもある。
梅東風に五色の幟閻魔寺
結界の砂に箒目冴返る
虫喰の閻魔の膝や冴返る
16年伊吹嶺誌6月号遠峰集
小さな閻魔堂と薬師堂がならんでいた。朧な春の闇の中の閻魔様も相当な年代物で膝には
いくつも虫食いの穴が散見された。
火渡りの見物人には大釜に煮えたぎる湯に青柴を漬けて、これを湯玉とし、振りかけ禊ぎ
としてくれた。
仄赤き閻魔の顔や春の闇
17年伊吹嶺誌5月号遠峰集
山伏の長き問答春北風
17年伊吹嶺誌5月号遠峰集
春の日を反す金冠稚児の列
17年伊吹嶺誌6月号遠峰集
結界の四方に禊ぎの矢を放ち青柴に火をつければ煙は狼煙となって青空に広がって行く。
青柴の山が崩れれば先ず行者達が燃えさかる榾を踏んで渡り始めた。最初と最後に大量の
塩が盛られており、これを足裏に付けて火に入っていた。後に続く善男善女も同じように
していたが、結構飛び跳ねていた。
印結び火渡る行者陽炎へり
16年伊吹嶺誌6月号遠峰集
火渡や熱りし頬に梅の風
16年伊吹嶺誌6月号遠峰集
余寒空滾る湯玉を行者撒く
最後は稚児装束の子供達。見事に小さな児まで渡りきって拍手を貰っていた。
火渡り行が終わると今度は人形供養が別の結界で行われた。立派な花嫁人形が一体あったが
どんないわれで供養の場に供されたのか他人事ながら心悼ものがあった。
寺には三十三観音も祀られ、その側にある椎の木は樹齢千年を超えると記されていた。
来年は秘仏の阿弥陀如来を正月に参拝して拝ませて貰おう。
春寒し花嫁人形焼ぶる寺
くれなゐに寄せ墓覆ひ薮椿
幹太き椎の神木春浅し
本年(2017)も同じ日に吟行できたので、俳句だけ少し入れ替えをしました。