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湯西川温泉郷(栃木県日光市)
ダムとなる渓の紅葉の濃かりけり
平家伝説
湯西川は鬼怒川温泉郷からバスでさらに1時間ほど上った、五十里(いかり)湖のさらに上流にあった。
しかし最初に驚いたのは何とこんな山里の平家の落人部落と言われる場所までが、市内なのである。日光市と聞くと、
逆に観光地としての価値を貶めているのではないかと、考えてしまった。
さらに当地へは東武線に直通運転の野岩鉄道会津鬼怒川線湯西川温泉駅からも30分以上車で掛かるところだが、この
間の紅葉は実に素晴らしいのであるが、これが3年後にはダムの底になるそうで、この日も工事は着実に進んでいた。
完成すれば、自動車道の大半はトンネルになるそうだ。都会と時間的に短くなることにより観光客が増加するだろうか?
ダムはこの雄大な景観を埋めてまで必要なのだろうか?
湯西川に着いても、藁屋根の大半は上から瓦様のもので覆われている。これは経済的なこともあるのだろうが、これも
観光資源の減少には違いない。残念に思った。
素晴らしい紅葉と温泉の中、平家の落人を思いつつ吟行に専念した。
紅葉濃し送電線の走る山
渓紅葉奈落に水の走る音
落人の落葉嵩張る村に棲む
銀杏の黄を敷きつめり平家寺
穂芒の弾く夕日を眩しめり
過疎村の陰陽石に紅葉散る
湯西川温泉郷
湯西川温泉郷は大きな旅館も幾つかあるのであるが、裏に回ってみると、どの旅館の露天湯も男女ともに大変開放的で
ある。この写真には人影はないが、寺の後ろの木陰からはすっぽんぽんのおばはんを見てしまい驚いた。
そして、この寺の入り口には男女のシンボルの石が道祖神よろしく鎮座していた。
平家落人伝説の地と言うことだが、復元された平家の里の古い調度品や端午の節句でも鯉幟を揚げないとか、鬨を告げる
鶏は飼わないとか、それらしき風習が数多く残っているようだ。
大きな朴落葉を踏んで渓紅葉を愛で、露天湯に上る煙を目で追っていると八百有余年の昔に戻って行くように思われた。
また、近くのマタギ村の沿道には熊の皮を乾している家があった。旅館に戻るのに近そうな道があったので地元の方に
方角が間違っていないか聞くと、合ってはいるがその道は熊がよく出るから、まともに自動車道をお戻りくださいと
言われた。こんな山深い温泉地も幾つかは今後とも残して置いて欲しいと思った。
重なりし紅葉の隙の露天風呂
熊の皮道に干しありまたぎ村
鹿鳴くや平家部落の冠木門
香り立つ朴の落葉や朝の靄
朝風呂や下駄に張りつく濡れ落葉
山紅葉濡らして噴けり露天の湯
語り部は平家の裔や秋深む
琵琶の音の序破急に散る紅葉かな
軒に積む薪の高さや秋深し
初霜や朝日浴びたる厨人
野紺菊たまさかのバス折り返す
つむじ風黄葉落葉を高舞はす
今回は俳句仲間十名で訪れた。例により、夜は句会。吟行句会が終わると、まだまだ皆物足りなそうで袋回しを行う
こととなった。最後は酒も回り眠くもなったが佳句、珍句が出て楽しかった。
翌日は一段と冷え込み、初霜となった。湯気上る露天湯。朝靄の漂う中に太陽が差してきて渓紅葉は一段と綺麗であった。
横浜まで戻った連衆が余韻醒めやらず、居酒屋に足が向いたのはもっともなことであった。